末廣徳司さんは、日本唯一の経営者専門スーツ屋として活躍されています。コンセプトは、”経営理念を身に纏う”。創業から13年、これまでに1万5000社を超える経営者の会社の顔にふさわしい見栄えを仕立ててきました。本稿では、江上治がそんな末廣徳司さんに行ったインタビューをご紹介します。
経営者もブランディングが欠かせない
江上治(以下、江上)――
私は常々、自分と関わった人に豊かになってほしい、成長してほしいと考えていて。それで経営理念を「縁を絆に変え、共に成長する」としています。50年以上生きてきて、お客様や友人も増えました。もっと人にご紹介したいのですが、口はひとつしかない。そこで、このメディアで記事にしてお客様や友人たちの魅力を広めていきたいと思います。
末廣徳司氏(以下、末廣氏)――
なるほど、それで急にインタビューさせてほしいと連絡が来たわけですね。江上さんはお会いした頃から、「周りを豊かにして自分も豊かになる。それを循環させたい」と話していて、今も変わらないですね。私も江上さんの影響を受けて大きく人生が変わった人の一人です。
江上――
そう言ってもらえると嬉しいです。末廣さんは、経営者専門スーツ仕立て屋として活躍されていますが、今後さらにニーズが高まりそうですね。今はどの会社も人財不足です。「優秀な人がほしい」と経営者はみなさん言うわけですが、「優秀な人に選んでもらえる会社になっているか」と自問することも必要。経営者は、その努力をしないといけないと思います。今は、経営者もブランディングが必要です。服装や髪型は、すぐにでも変えられるじゃないですか。末廣さんのようなプロの力が必要ですが。
末廣――
ありがとうございます。確かにそうで、服装や髪型はすぐに変えることができます。着る服を変えることで佇まいや態度、言葉遣いが変わり、内面も変わっていく人もいらっしゃいますよ。
江上――
多くの人は、自分に似合う服がわからないと思いますよ。客観的に自分を見られる人は稀で、だからメンターが必要。洋服選びもそうだし、本を書くのもそう。経営もそう。頭が固くて鈍いと成功できないから、「末廣さんに洋服選びのメンターになってもらう」というオープンマインドじゃないとダメなんですよ。
「本質を考えろ」と初日にアドバイスされた
江上――
末廣さんとは2012年頃からだから、もう10年のお付き合いになるわけですね。
末廣--
そうなりますね。創業は2009年なので、3年目くらいに江上さんの塾を受講しました。振り返ってみると、それが大きな転機になりましたね。
受講初日に言われたのがいきなり強烈で、「洋服を消費で買う層は捨てろ。投資で買う層にしろ」とアドバイスされました。「なぜその洋服を買うのか?本質を考えろ」と初日に言われて。
江上――
そんな偉そうなことを言ってたんだ。
末廣――
それまでターゲットは「年収600万円のサラリーマン」としていました。江上さんに「今すぐやめろ」と言われて(笑)。そのターゲットだと、買うスーツは5~6万円くらい。百貨店でもその層が多い。そういう人は、値段で買っているから安いものが出たらそっちにみんな移る。そこは大手も狙う層だから、価格競争で勝てない。だからすぐに市場を変えろとアドバイスしてくれました。
「なぜ洋服を買うのか?」「だれがその洋服を買って得するのか?」と、質問攻めにあって。その後、江上さんが「経営者や金融営業マン、不動産営業マン、講演家のように、洋服で自分のブランド価値を上げるためなら、そういう人は洋服に投資するよ」と言ってくれて、「経営者専門と言ってしまえば良い」とアドバイスしてもらいました。
受講するまでは、サラリーマンに洋服を売るただの物売りだったわけですが、江上さんとの出会いで戦略を大きく変えました。受講後すぐに、「経営者専門スーツ仕立て屋」に変えていきました。
経営者は“経営理念を纏う”
江上――
他に、なにか記憶に残っているアドバイスはありますか?
末廣――「持論をつくれ」ともアドバイスされました。「経営者にとって、スーツとはなんぞや」ということを持論で語れるようにしなさいと。
「モテたい」と思って洋服を選ぶ人はいると思いますが、よく考えて見ると「モテたい」と四六時中考えている経営者はほぼいません。経営者は業績、売上、自社の成長が頭の中に常にある。それで私は、「洋服はメディアである」と定義しました。
江上――
なるほど、メディアか。
末廣――
例えば、スティーブ・ジョブズは毎日同じ洋服を着ていたことで有名ですよね。なにかを選択するということを1つでも減らすために毎日同じ洋服にした面もあると思いますが、私は「自分が着る洋服で経営理念を表現した」のだと解釈しています。
ジョブズの服装は、アップルの理念そのものです。シンプルで余計なものがない。潔さや、日本の禅の精神が表現されている。経営者は、経営理念を纏うのです。私は、洋服を通じたブランドづくりが自分の進む道だと気づきました。
江上――
偉そうにアドバイスしたけど、当時の私が言ったことは、自分が出版するときに出版プロデューサーの土井英司さんから言われたことです。土井さんにも「江上は創業オーナー、経営者だけをお客さんにしろ」と言われたんですよ。
また、私の本にも登場するF社長には「江上は、自分の魅力をわかってるの?」と言われたことがあります。私が「ガムシャラにやっているだけです」と答えたら、「それじゃダメ」と。F社長は、「江上の魅力は、営業が得意ということじゃない。メンタルが強い。だから創業オーナーが江上さんのファンになる」と言ってくださいました。自分を深く掘り下げないと、本質はなかなか見えてきませんね。
末廣徳司氏プロフィール
日本で唯一の経営者専門スーツ仕立て屋「イルサルト」代表
1972年、奈良市生まれ。早稲田大学卒業
ユナイテッドアローズ時代は、業界を代表する社内の服飾専門家から直接レクチャーを受ける。ワールド在籍時は、商品開発にかかわる全業務を経験し、1週間に5万点以上売り上げる大ヒット品番を連発し、会社の販売記録を更新。中国でのブランド立上げにも参画し、北京・上海を中心に100店舗以上の出店を行う。
2009年に独立後は、スーツを通したブランド創りの専門家として創業以来、経営者、政治家、医師、作家、講演家、士業、芸能人、スポーツ選手などエリート15,000名以上のスーツを仕立てる。
初の著書『装いの影響力(かんき出版)』
(後編に続く…)