先行きの見えにくいVUCAの時代。改めて知っておきたいのが、物事の原理原則や普遍的な真理です。過去の偉人たちや数々の事業・会社を立ち上げ、成功させてきた創業経営者たちの言葉には、そんな原理原則と真理がたくさん含まれています。ベストセラー作家としての顔も持つ江上治の数々の著書のなかから、「江上治が改めて伝えたいメッセージ」として抜粋してお伝えします。
江上治著『運命転換思考 一生かかっても身につけたい5つの「働き方」改革(経済界)』の内容を抜粋、一部編集しております。
不用意な質問で失敗した過去
私自身も、不用意な質問をしたために水をぶっかけられた経験があります。まだ、サラリーマンになりたてのころの話です。
ある車の整備工場に行ったとき、そこは地域でいちばんの会社だと知っていたのですが、
「御社では、車検は月に何台くらいなのですか」
会ってすぐ、整備工場の社長にそう聞いたのです。
とたんに社長の顔色が変わって、そばにあったバケツの水をぶっかけられました。「帰れ」とえらい剣幕です。
「おまえな、初対面の人間に車検の台数がいくらですか、なんて聞くのは、財布の中身を聞くのと同じだぞ。どんな教育を受けているんだ。親の顔が見たい!」
すっかり怒られてしまいました。
質問するという行為は、相手のいいところを発見してあげることにつながります。傾聴することは、その人の価値観、人生観を聴くことです。
その人の人生観を聴かなければ、よい提案というのはできません。
相手が経営者であるなら、その会社の理念、将来のビジョンなどを聴く。企業理念やビジョンのなかには、社長の思いや将来の目的、創業の背景などの要素が詰め込まれています。
経営者も、自分や自分の会社を語りたいのですから、それを聞けば喜んで話してくれるでしょう。
コミュニケーションを図ることができれば、相手にはどんな提案をすればよいのか、喜んでもらえるかがわかってきます。上手に質問し、心を許してくれれば、紹介などもあってどんどん広がっていくのに、もったいない話です。
なんちゃってコンサルになってはいけない
イソップ物語に、滑稽で、哀れなカエルの話が出てきます。
ふと見かけた大きな牛がうらやましくて、「自分も大きく見せたい」と腹を大きく膨らませ、「ウーン」と力んだとたん、腹がバンと破裂してしまうカエルの話です。
このカエルを人に引き寄せて同類を探してみると、弱みを見せたくない人、むしろ虚勢を張って、あるいは見栄を張って強く見せたい人といえます。ブランドを極限まで上げたくてバタバタするのですが、かえって自ら価値を下げてしまう残念な人です。
私自身、かつて知ったかぶりをして、メンターに叱られた経験があります。
まだ独立して間もないころ、マーケティングの勉強をしていました。自分ではマーケティングの知識を自慢したくて、偉そうに、「顧客心理はウンヌン、カンヌン…」話し出してしまったのです。
すると、2分もたたないうちに、
「君、やめなさい」
「君は何のプロだね? 私はこれでも年に何百億円という商売をしている人間だよ。
お客さんの心理は、少なくとも君なんかより、何倍も知っている。
うわべの知識をひけらかす人間には、魅力がないよ。
なんちゃってコンサルに、なってはいけない。
そんなことでは、経営者として必ず失敗するよ。
保険のプロなら、保険を使って人を幸せにする情報以外は、話す必要がない。
自分の世界で勝負しなさい。保険のプロらしいことをいいなさい。
そんな知ったかぶりをしていると、本当に小さな人間に思われるぞ。
ご両親が悲しむぞ」
そういわれました。最後の言葉は、とどめで、腹の底にずしんときました。
このときに、私自身の弱い部分をズバリとえぐっていただかなかったら、もっと大きな恥ずかしい振る舞いや、取り返しのつかない失敗をしていたに違いありません。