経営

持たない経営で身軽に生きよう(前編)

持たない経営で身軽に生きよう(前編)/持たない経営で身軽に生きよう(後編)
会社のパーパス(存在意義)や在り方、長期的な方針を考えることは、経営者にとって極めて大切なことです。それは、まさに経営者に“しか”できない仕事であると言えます。しかし近い将来、会社という組織の存在すら過去のものになるかもしれません。ミニマムになることで持たない経営を実現し、身軽に軽やかに生きられるようになるでしょう。

ティール組織は目的のために進化し続ける組織

「持たない経営」を実現するために知っておきたいのが、ティール組織という言葉です。ティール組織とは、ひとつの概念です。2014年にフレデリック・ラルーの著書『Reinventing Organizations(邦題:ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現 英治出版)』で紹介され、話題になりました。

ティール組織では、従来型組織のような指示系統はありません。「存在目的」「自主経営」「全体性」などにフォーカスし、経営者や上司がマネジメントしなくても、目的のために進化し続ける組織です。「自主経営」という考え方は、リクルートの仕事哲学でいう「社員皆経営者(従業員皆経営者)」の考え方にとてもよく似ています。

言い換えると、「一つひとつ明確に指示しなくても、自走してくれる組織のこと」ということかもしれません。なかなか実現するのは難しいですが、経営の理想形のひとつではあるでしょう。

ティール組織の先は「ブロックチェーン組織」


ビットコインを支える技術がブロックチェーンです。ブロックチェーンは、技術面で画期的だっただけでなく、概念としても画期的でした。データを特定の管理者が管理するのではなく、分散してみんなで管理・監理しようという概念と仕組みが画期的だったのです。

また、ブロックチェーンやその技術を活用したビットコインなどの暗号資産は、その根底にある思想が革新的であったことも、世界中に広まったことに影響しています。その思想とは、「お金のやり取りはもっと自由であるべきだ」という考え方です。

法定通貨(いわゆるお金)の発行は、中央銀行などの管理者(権利者・権力者)によってコントロールされています。しかし、インターネットが普及した現代ではその考え方自体が前時代的であり、「もっとコストを安く、スピードも速く、便利にできるだろう。だってメールはこんなに簡単に世界中でやり取りされているんだから。お金のやり取りだってそうできるはずだ」という発想が生まれました。この目的のために、ビットコインやブロックチェーンは進化を続けています。

そして、「管理はみんなでできる」ということで、「分散型」という言葉ができました。この分散型は、今後、会社という組織の在り方をも変えるかもしれません。

ブロックチェーン組織は自律分散型

ティール組織やブロックチェーン組織の概念が浸透すれば、自分自身をセルフマネジメントしていく人が増え、みんなで秩序を持ちながら組織をつくっていくことができるようになるでしょう。これを「自律分散型組織」と言います。

自律分散型組織は、英語では「Decentralized Autonomous Organization」略して「DAO」とも呼ばれています。DAOは特定の管理者や主体を持たない分散型(非中央集権型)の組織のこと。構成員一人ひとりによって自律的に運営されている組織を指します。

この自律分散型組織の先駆けが、ブロックチェーンやその技術を活用したビットコインなどの暗号資産なのです。

分散型で機能した分散型金融(DeFi)

分散型の概念を通貨だけでなく、より広義に捉え、銀行業などの幅広いシーンで活用していくのが「分散型金融(DeFi)」です。

分散型金融(DeFi)とは、ブロックチェーンを証券や保険、デリバティブ(金融派生商品)、レンディング(融資・投資)などのさまざまな金融分野に応用させ、中央管理者を排除した透明性の高い金融プラットフォームのことです。金融を「金融“機関”(中央管理者)が提供するもの」から「金融“サービス”(機能)を提供するもの」に変えていこうという試みで、2020年から分散型金融(DeFi)市場は拡大を続けてきました。2020年8月時点でTVL(Total Value Locked: 複数のDeFiプロトコルのスマートコントラクトにロックされている暗号資産の合計額)は8兆円強になっています。

分散型金融(DeFi)市場は今後も拡大を続け、分散型でも金融サービスは機能することを証明するでしょう。

自律分散型組織(DAO)は持たない経営を実現する

暗号資産の代名詞とも言えるビットコインは、サトシ・ナカモト論文を書いたサトシ・ナカモトによってβ版が公開され、始まったシステムです。その後は、世界中のエンジニアによって改良が加えられています。

ビットコインには特定の管理者がいません。指示系統もなく、自由に改良されていって今に至ります。もちろん、処理スピードの遅さなど、さまざまな問題が生じていますが、それでもビットコインのブロックチェーン自体は10年以上機能し続けているのです。

また同じく、ブロックチェーン技術を用いた暗号資産・イーサリアムを支える、イーサリアム財団の宮口あやエグゼクティブ・ディレクターは、財団についてこのように語っています

「敢えて団体を大きくしすぎず、外部の人材を中からサポートする形で運営しています。財団の持つコミュニティはオープンなので、人の出入りも自由です。一般的には優秀な人材を見つけたら雇い入れると思いますが、そうすると財団が潰れたときに全部だめになってしまいますよね。一極集中するのではなく、分散させるのが、そもそもブロックチェーンの概念なので、私たちも非中央集権型の組織づくりにチャレンジしているんです」

これまでの会社のような中央集権型組織であれば、役員会や定例会、各現場会議、商談などで議論がされたり、最近はリモートワークで少なくなりましたが、立ち話や雑談からアイディアが生まれたりします。

しかしこれからの時代は、会社という組織がなくても、プロジェクト毎に必要な人が集まり、プロジェクトが終われば解散する、そしてまた必要になったら集まる。集まるメンバーは、同じ人とは限らない。長期的なプロジェクトもあれば、数週間・数カ月の短期プロジェクトもある…というような、自律分散型組織(DAO)によって機能するサービスが増えていくでしょう。

「管理される方が楽だし安心する」という人がまだまだ多いですが、自律分散型組織(DAO)が増えれば、自ずと社会そのものが自律分散型社会になっていきます。自律分散型組織(DAO)の概念を知ることは、持たない経営への第一歩です。

後編では、自律分散型社会で求められる人材やスキルについて触れます。

中島 宏明

中島 宏明

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経営者のゴーストライター

2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。

暗号通貨草創期からの投資家仲間を通じて、草創期からの投資家しか知りえない暗号通貨に関する情報を取得している。

現在は複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島でアパート開発と運営を行っている。

マイナビニュースで、投資や新時代の働き方をテーマに連載中。

連載一覧 https://news.mynavi.jp/author/12228/

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