幸福とはなにか、どんな未来が幸せなのか…そんな思案をするときに読み返したいのが、有名な「漁師とコンサルタントのお話」。結果だけがすべてではありませんから、結果に到達するまでのプロセスや道すがらも、とても大切です。本稿では、幸福について考えていきましょう。
漁師とコンサルタントのお話
“幸福とはなにか?”
というテーマでよく登場するのが、有名な「漁師とコンサルタントのお話」です。この逸話と似たエピソードは、30年以上前からあるそうです。…ということは、幸せを考える幸福論論争は30年以上も大きく変わっていないということでしょうか。
漁師とコンサルタントのお話は、以下のようなエピソードです。
メキシコの海岸沿いの小さな村に、MBAをもつアメリカのコンサルタントが訪れた。
ある漁師の船をみると活きのいい魚が獲れている。
コンサルタントは聞いた。
「いい魚ですね。漁にはどのくらいの時間かかるのですか?」
「そうだな、数時間ってとこだな」
「まだ日は高いのに、こんなに早く帰ってどうするのですか?」
「妻とのんびりするよ。一緒にシエスタを楽しみ、午後にはギターを弾きながら子どもと戯れ、夕暮れにはワインを傾けながら妻と会話を楽しみ、それで、寝ちまうよ」
それを聞いてコンサルタントはさらに質問をした。
「なぜもう少し頑張って漁をしないのですか?」
漁師は聞き返した。
「どうして?」と。
「もっと漁をすれば、もっと魚が釣れる。それを売れば、もっと多くの金が手に入り、大きな船が買える。そしたら人を雇って、もっと大きな利益が出る」
「それで?」と漁師は聞く。
コンサルタントは答える。
「次は都市のレストランに直接納入しよう。さらに大きな利益が生まれる。そうしたら、この小さな村から出て、メキシコシティに行く。その後はニューヨークに行って、企業組織を運営すればいいんだよ」
「そのあとはどうするんだ?」漁師はさらに聞いた。
コンサルタントは満面の笑みでこう答えた。
「そこからが最高だ。企業をIPOさせて巨万の富を手に入れるんだ」
「巨万の富か。それで、そのあとはどうするんだい?」と漁師は最後に質問した。
「そしたら悠々とリタイヤさ。小さな海辺の町に引っ越し、家族とのんびりシエスタを楽しみ、午後にはギターを弾きながら子どもと戯れ、夕暮れにはワインを傾けながら妻と会話を楽しむ。のんびりした生活を送れるのさ」
漁師はため息をつき、やれやれ、という顔で一言を付け加えた。
「…そんな生活なら、もう手に入れているじゃないか」
「人生の重み」とはなんなのか
この漁師とコンサルタントのお話は、どちらかといえば「コンサルタントは、幸福とはなにかをわかってない。漁師の方が、真理をわかっている」というニュアンスや意図として広まっているエピソードでしょう。
確かに結果だけみれば、「すでに手に入れている幸せ」です。
足るを知る者は富むという言葉もありますから、その解釈もわかります。しかし、見方を変えれば
「毎日、シエスタとギターとワインを愉しむ生活を数十年続けた人」
と
「リスクを取って起業し、人を雇い、苦労しながらも事業を続けて海外展開やIPOを目指し、実現したのちに余暇を愉しんでいる人」
とでは、重みが全く違うのではないでしょうか。
結果だけに焦点を当ててしまうと、本質を見失ってしまうかもしれません。人生の結果が死でしかないのなら、ただ生まれて死ぬだけになってしまいます。
貢献者で在り続けることが人生
新型コロナウイルスの感染拡大が起こりはじめてから、ウィズコロナ・アフターコロナ時代の経済論や人生論のような話題は、多くのメディアで出てきています。
いつの時代、どの業界にも、未来予測学者風の人はいるものです。視聴率やアクセス数、再生回数を取りやすい話題なので、なにか意図がある情報発信なのでしょう。
インターネットが誕生したときも、「紙のメディアはこれで消える」「都市一極集中がなくなり、地方が活性化する」「地方の活性化で、港区や中央区の地価が下がる」と言われていました。しかし、実際はそうなっていません。
ウィズコロナ・アフターコロナ時代の未来予測を見ていると、気分が落ち込んでしまう人もいらっしゃるでしょう。半分娯楽と思ってみた方が、精神衛生的には良いのではないでしょうか。
よくメディアに取り上げられる、「AIが人間の仕事を奪う」話題も、これと一緒です。
確かに、保険募集人や税理士、事務職などは「将来なくなる職業」として挙げられることが多い仕事です。しかし、多少形が変わっても、営業のような人と対峙する仕事はなくならないでしょう。信頼関係があってこそ成立する仕事ですから、アナログな要素も必要なのです。
信頼関係を築くためには、やはり重要になるのが貢献の精神、ギブ&ギブの精神です。そして、言葉だけでなくそれを実践し、体現することです。貢献者で在り続けることで成長でき、だれにも奪われない無形資産を築くことができるでしょう。